ネクロノミコンとは|クトゥルフ神話に出てくる代表的な魔道書
クトゥルフ神話を題材にしたTRPGで遊んでいるのであれば一度は耳にしたことがあるであろう「ネクロノミコン」。ゲーム内では魔道書として登場しますが、実際どのようなもので、どのように扱えば良いのか?ネクロノミコンについて解説します。
ネクロノミコンとは
ネクロノミコン(Necronomicon、邦訳題:死霊秘法)は、クトゥルフ神話の生みの親でもある作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(H.P.ラヴクラフト)の一連の作品に登場する架空の書物です。クトゥルフ神話大系の中では特に重要なアイテムとしてさまざまな作品に登場しています。
ネクロノミコンの内容
ネクロノミコンに書かれている内容はクトゥルフ神話の話や宇宙の真理などが書かれている他に魔道書としての実用性があります。そのため、ネクロノミコンを読んだものはクトゥルフ神話と魔術の知識を得るとされています。クトゥルフ神話TRPGでは〈招来〉や〈接触〉の呪文を修得することもできます。高い神話レーティングを持つため、深いクトゥルフ神話の知識を得ることができますが、その分大量の正気を失うことになります。なお、原典から離れている翻訳版や写本は正確な情報が失われていることもあり、レーティングは若干低下しています。
ネクロノミコンの著者
ネクロノミコンはアラビア人「アブドゥル・アルハザード」(アブドル・アルハズラット、アブド・アル=アズラットなど)が書いたとされています。イスラム帝国ウマイヤ朝の時代(西暦700年頃)にイエメンのサナアで活躍した詩人とされ、ムスリムであったにもかかわらずイスラム教やその聖典であるクルアーンの教えには関心を持っていませんでした。そのかわりに、ヨグ=ソトースやクトゥルフ等の旧支配者を信奉しており、魔術師や科学者、哲学者の側面を持っていました。
そのため、「伝説の円柱都市アイレムを見た」「アラビア南部の砂漠にある無名都市の廃墟の地下で人類より古い種族の秘密の年代記を発見した」など信じ難い言動から、狂人と伝わっています。
彼はバビロンの遺跡とメンフィスの地下の秘密を訪れ、アラビアにある古代人のロバ・エル・ハリエまたは「空の空間」、現代アラブ人の「ダーラ」または「クリムゾン」と呼ばれるグレートサンディー砂漠で10年間を独りで過ごしました。730年にまだダマスカスに住んでいたアルハザードは、後にネクロノミコンとして知られるようになる究極の悪の書『アル・アジフ』をアラビア語で書いたとされています。
西暦738年に彼の最期を迎えた、または失踪したとされ、イブン・カリカン(13世紀の伝記作家)によると、アルハザードは白昼堂々と目に見えない怪物に捕らえられ、恐怖に凍りついた多数の目撃者の前で恐ろしくむさぼり食われた、と語られています。
ネクロノミコンの歴史
アルハザードのより『アル・アジフ』が誕生して以降、写本が広まると事態を重くみた聖職者により禁書になり、それ以降ほとんどの国とすべての組織化された聖職者で禁止されています。
- 730年。アルハザードがダマスカスで原書となる『アル・アジフ』を執筆する。
- 738年。アルハザードが公衆の面前で見えない怪物に貪り食われて最期(死亡または失踪)を迎える。のちに『アル・アジフ』がアラビア語で写本される。
- 950年。コンスタンティノープルのビザンティンであるテオドロス・フィレタスが『アル・アジフ』をギリシャ語に翻訳し、その写本を『ネクロノミコン』とする。
- 1050年。ミハイル総主教により『ネクロノミコン』が没収され処分される。
- 1228年。オラウス・ウォルミウスがギリシャ語版『ネクロノミコン』をラテン語に翻訳する。アラビア語の写本はすでに失われている。
- 1232年。教皇グレゴリウス9世がギリシャ語版とラテン語版の『ネクロノミコン』を禁書に指定する。
- 1404年頃。アラビア文字を使ってギリシャ語とラテン語で記された写本『ヴォイニッチ手稿(ヴォイニッチ写本)』が作られる。
- 1454年。ドイツのマインツでグーテンベルグが活版印刷機を発明する。
- 1490年頃。マインツで活版印刷機を用いてラテン語版『ネクロノミコン』のフラクトゥール書体版(第1版)が印刷される。
- 1500年初頭。イタリアでギリシャ語版『ネクロノミコン』が印刷される。出版者はアルド印刷の創業者であるアルドゥス・マヌティウスとみられる。
- 1586年。数学者で占星術者、錬金術師、エリザベス女王の主治医でもあるジョン・ディー博士によりギリシャ語版『ネクロノミコン』の英訳した写本が作られる。この写本は一部削除されたものだが、完全版が3部存在する。なお、ジョン・ディーも『ヴォイニッチ手稿』を所有していたとされている。
- 1597年。フレデリック男爵がラテン語版『ネクロノミコン』から英語に翻訳し、8つ折り判の『サセックス草稿(悪の祭祀)』をイギリス南東部のサセックス州で出版。
- 1600年頃。粗野な英語で書かれた『アル=アジフ-アラブの書』という雑で不完全な手書きのものが出回る。
- 1600年はじめ。スペインでラテン語版『ネクロノミコン』(第2版)が印刷される。
- 1670年頃。プラハの錬金術師ゲオルク・バレシュが所有していた『ヴォイニッチ手稿』が、友人のキルヒャーの手に渡る。
- 1692年。マサチューセッツ州セイラムで行われた魔女裁判に関連して、ギリシャ語版『ネクロノミコン』の知られているもので最後の1部が燃やされる
- 1912年。ポーランド系アメリカ人の革命家で古書収集家のウィルフリッド・ヴォイニッチが、購入した30の手稿の中にあった『ヴォイニッチ手稿』を発見する。
現存されているネクロノミコン
教会によって禁書され、没収・処分されてり、魔女裁判で失われたりしたネクロノミコンですが、現在5つ存在することが確認されています。
- パリ国立博物館・・・ラテン語版。スペインで印刷された第2版。
- ハーヴァード大学ワイドナー図書館・・・ラテン語版。スペインで印刷された第2版。
- アーカムのミスカトニック大学図書館・・・ラテン語版。スペインで印刷された第2版。
- ブエノスアイレス大学図書館・・・ラテン語版。スペインで印刷された第2版。
- ロンドン大英博物館・・・ラテン語版。ドイツで印刷された第1版。
ただし、表舞台に出ていない個人所有のネクロノミコンもあるため、どの版がシナリオで出てきてもおかしくはありません。
ネクロノミコンの外観
ネクロノミコンもさまざまな形で写本・印刷されていますが、印刷物は版によっては形状が変わっています。製本されるようになったのが中世からであるため、アル・アジフの写本は巻物かもしれません。サイズは全紙を1回畳んだフォリオ判、フォリオ判を1回畳んだクォート判、クォート判を1回畳んだオクターヴォ判と小さくなっていきます。
- アル・アジフ・・・オリジナルの形式は不明。写本には図表や製図も含まれている。
- ギリシャ語版ネクロノミコン・・・手書き写本は不明。印刷物は1回だけたたむフォリオ判。
- ラテン語版ネクロノミコン・・・初期は写本。のちにドイツで印刷された第1版、スペインで印刷された第2版はフォリオ判。
- 英語版ネクロノミコン・・・綴じた写本。
- ヴォイニッチ手稿・・・フォリオ判。
- サセックス草稿・・・オクタヴォ判。
- アル・アジフ-アラブの書・・・写本。
現存が確認されているネクロノミコンではロンドン大英図書館とミスカトニック大学図書館にあるおのが比較的状態が良いです。
マーベルのネクロノミコン
アメコミで人気のマーベル作品には『ダークホールド』という伝説的な魔道書が登場します。これはTVシリーズ『エージェント・オヴ・シールド』や配信の『ワンダ・ビジョン』、映画『ドクター・ストレンジ マッドネス・オヴ・マルチバース』においてキーアイテムとして登場します。マーベルではアルハザードがこのダークホールドをもとにネクロノミコンを作成したとされています。
まとめ
いかがでしたか?ネクロノミコンはクトゥルフ神話を遊ぶ上でも、神話の世界に触れることができるキーアイテムとなります。6版や7版で遊んでいる探索者であれば、そのレアさからも登場するだけで嬉しいでしょう。アザトースやヨグ=ソトース、ハスターといった代表的な神格も関係しているのでシナリオに自作シナリオでも使いやすいです。とはいえ、ネクロノミコンの存在が明るみになるときには大事件が起きてるはずなので、探索者にもその覚悟をしてもらいましょう!